会社が正社員を解雇できない理由、雇用の解雇規制のデメリット

2017年11月7日

日本では正社員と非正規社員の間の経済格差が深刻な問題となっています。正社員は簡単には解雇できず、昇給とボーナスがあるのに対し、非正規社員は正社員と比べて給料が低く、雇用も不安定です。正社員の解雇に対する法規制は、日本の雇用市場・雇用条件を悪化させている原因の一つです。今回はその問題について解説します。

正社員とは何か

その前に正社員とはどんな労働者なのかをはっきりさせておきましょう。正社員とは、終身雇用を前提とした、年功序列で処遇が決まる労働者のことです。労働者の仕事の成果よりも、その地位を元に給料を決めるため職能給を採用しています。

非正規社員とは何か

非正規社員は正規雇用以外で雇用されている労働者で、具体的にはアルバイト、パートタイマー、派遣社員、契約社員をさします。非正規雇用では給料は仕事によって決められるため、職務給を採用しています。職務給では労働者の性別・年齢・人種によって賃金が変わらない同一労働同一賃金が徹底されています。欧米諸国では職務給による給与形態が一般的で、今ではグローバルスタンダードになっています。

整理解雇の四要件

なぜ正社員を容易に解雇することができないのか?それは正社員を解雇するには、整理解雇の四要件を満たさないといけないからです。その条件が極めて厳しく、日本の会社では正社員をクビにすることはほぼ不可能です。では四要件について説明しましょう。

1. 人員整理の必要性

正社員を解雇するには、そうしないと経営が維持できないほど切羽詰まった状態でないといけません。正社員の高い人件費が払えずに会社が倒産しそう!となってようやく正社員を解雇できるわけです。

2. 解雇回避努力義務の履行

正社員の解雇は、それ以外の手段をすべて出し尽くした後の最終手段としてのみ使えます。具体的には役員報酬の削減、新規採用の中止、希望退職者の募集などです。一番痛いのは新規採用の中止です。人手不足のこの時代に新規採用を止めることは、会社にとって自殺行為のようなものです。正社員を解雇するには、ここまでしないといけないのです。

3. 被解雇者選定の合理性

正社員を解雇するには、合理的な理由がなくてはならないということです。仕事の評価がとても低い、仕事に対してあまりにも消極的である、などですね。ただしよほどの怠け者でない限り当てはまらないケースが多いです。そもそも仕事を真面目にしているかどうかを客観的に示すことが難しいですからね。

4. 手続の妥当性

正社員を解雇するにあたって事前に説明や話し合いが必要だということです。一方的に「お前はクビだ」と言っても認められないケースが多いです。

以上の四要件が正社員を解雇するための高いハードルです。これを実行するには派遣社員の雇入れの停止、新規募集の中止などをしないといけないので、正社員の解雇は実質的に不可能となっています。

したがって会社の経営が不安定になると、まず法的に保護されていない非正規社員から解雇されます。正社員の解雇のハードルがあまりにも高いため、会社は非正規社員で雇用を調節してきたのです。

結果として非正規社員は解雇のリスクに怯えながら、低賃金で生活する羽目になります。結婚もできず、子供も作れず、家や車も買えず、贅沢もできず、非常に限られた人生を生きることになります。

ではこの理不尽を解決するにはどうすればいいのでしょうか?答えは簡単で、正社員の法的な保護を取っ払うことです。そうすれば会社は人件費の高い正社員をクビにして、もっと優秀な人材を雇うことができます。しかし2001年から解雇の規制を緩和するための法整備をしようとしていますが、未だに実現には至っていません。

雇用の解雇規制のデメリット

ここまでは正社員の雇用の解雇規制とは何なのかについて説明しました。この悪法が日本の社会に与える悪影響について話しましょう。

転職が容易にできない

サービス残業や過労死で従業員が亡くなるニュースを見たとき私たちはこう思うはずです。「そんなにひどい環境なら辞めればいいのに」と。しかし当の本人は過労で精神的に追い詰められておりそこまで考える余裕がありません。

またサービス残業を強いられるのは多くの場合、正社員です。非正規社員なら割りに合わないと感じたら、すぐにやめることができます。しかし正社員は雇用が保護されており、待遇もいいので、辞めるためのハードルが非常に高いのです。

正社員は雇用コストが非常に高く、容易に解雇できないので、他の会社も正社員を採用したがりません。一度正社員の立場を失うと、次からは非正規社員になる確率がとても高いのです。だから能力のない人ほど正社員の地位にしがみつくしかありません。会社はどれだけ酷使しても辞めない労働者を手に入れたので、ボロ雑巾になるまで使い倒します。

嫌な人間と一緒に働かないといけない

組織に属して色々な人間と出会うと、中にはどうしようもない人間と接する機会も生じます。そうした人間は口をひらけば他人の悪口を言い、不都合があれば悪態をつき、職場の雰囲気を悪くします。会社を辞められない正社員はこうした人種とも付き合う羽目になり、心に大きなストレスを与えます。

もし日本でも解雇のルールが決められていれば、こうした人間を解雇して、職場環境を守ることができたはずです。もしくはストレスにさらされる労働者の方が会社を辞めることだってできたはずです。

キャリアアップできない

欧米の労働市場では職務給が採用されており、仕事に対して賃金が決められています。高い技能と経験があれば誰でも高賃金の仕事に就くことができます。だからこそ欧米の労働者は職場を転々として、スキルを磨いて、キャリアアップを目指します。起業を除けば、それがもっとも効率の良いお金の稼ぎ方だからです。

一方日本では雇用の流動性が低く、労働者の転職も活発ではありません。スキルを磨いてもそれが賃金に結びつかないので、モチベーションも上がりません。だから日本の労働者は他の国の労働者よりも会社に対するコミットメントが少ない傾向にあります。

職場の風通しが良くならない

職場の「風通しの良さ」とは、自分の意見を自由に言える環境のことです。職場の風通しを良くするために、飲み会やバーベキューなどを行う会社もありますが、私は懐疑的です。職場の雰囲気や労働環境は、組織の在り方や運営方法に依存するので、突発的にイベントを行っても意味がないと思います。

風通しの悪い職場とは、上司の言うことが絶対で部下はそれに逆らえない状態、新しいビジネスや取り組みに対する消極性、何か問題があればすぐに批判する雰囲気などを持っています。労働者が一つの会社でずっと働いていると、仕事がルーチン化して、新しいことを考えなくなります。そうした労働者が多数集まって形成されるのが、風通しの悪い職場です。

労働に多様性が生じない

正社員は基本的に週5日の8時間労働ですが、子供が生まれたり、親の介護が必要になると、この労働時間では働けなくなります。結果、子供が生まれた母親や親の介護をする労働者は正社員を辞めて、低賃金の非正規労働を強いられます。高いスキルを持った人間も、非正規労働をすることになり、社会的に大きな損失です。

労働時間が4時間、6時間で高賃金な仕事があれば、彼らも喜んで働いたかもしてません。雇用の流動性がもっと高ければ、短時間労働の仕事も生まれやすくなったはずです。

労働環境が劣悪になる

正社員はどれだけ酷使しても簡単には辞めません。それをいいことに会社は労働者を長時間働かせようとします。過労死・サービス残業もおかまいなしです。特にブラック企業は労働者を正社員として雇い、最低賃金を下回るほど働かせて、大きな利益を得ます。解雇の流動性が高ければ、彼らも初日で仕事を辞めるでしょう。厳しすぎる雇用の解雇規制がブラック企業を生んだと言えます。

理不尽なクレームが生じる

保守的な会社では上司だけでなく、取引先も傲慢です。つまらないことに難癖をつけたり、問題が生じると怒鳴ったりします。取引先は大事な顧客なので無下にはできません。だから理不尽なクレームも受け入れなくてはなりませんが、それがクレームをさらにエスカレートさせます。

雇用の流動性が高ければこんなことは起こりません。理不尽なクレームが続くと従業員が辞めてしまうからです。経営者としては人手不足は絶対に避けたいので、理不尽なクレーマーには断固とした対応を取ります。そして従業員とお客さんとの立場が対等になり、従業員がへりくだることも、客が偉そうにすることもなくなります。

サービス残業が生じる

サービス残業は本来発生したはずの賃金を払わないことなので、給料泥棒として恥ずべき行為です。しかしブラック企業を含めた日本の企業、特にコンプライアンス意識の低い小さな企業ではサービス残業が常態化しています。サービス残業はタダ働きなので、全く割りに合わない行為です。正社員でなければ辞めていますし、雇用の解雇規制が緩和されていれば、正社員もすぐに辞めることでしょう。

労働生産性が低くなる

日本の雇用システムでお金持ちになるには、大企業の正社員になることが一番です。たとえプログラムや語学が得意でも、大企業の正社員になった方が金になります。だからこそ日本の就活生はこぞって大企業に募集します。確かに大企業の福利厚生は豊かですが、入社した後は必ずしも幸せになれるとは限りません。

中年男性の自殺率が上がる

日本の雇用体系ではスキルを磨く必要がありません。そんなことをせずとも歳を重ねるごとに自動的に給料が上がります。また正社員の雇用は法律で堅く守られているので、成果が出せなくてもクビになる心配がありません。しかし会社が倒産していざ転職活動をするとなると、まともなスキルが身についていないため、満足のいく仕事に就くことができません。スキルのない中年サラリーマンには低賃金の非正規雇用しか道が残されていないのです。

こうした境遇が受け入れられず、また教育費や家のローンが払えずに、精神的に追い詰められて自殺することもあります。もし雇用の流動性が高ければ、会社が倒産する前に別の会社に転職することも容易だったでしょう。

給料が上がらない

ひとたび正社員を採用すると、解雇することはほぼ不可能です。解雇ができないということは、その労働者の賃金を一生払い続けないといけないということです。下手に賃金を上げてしまうと、会社の経営が傾いた時に人件費を支払いきれないので、会社は社員の賃上げにも消極的になります。日本の平均年収が数十年前から下がっている理由の一つは、正社員の昇給が抑えられているためです。

就活地獄

日本の会社は正社員をクビにできないので、その採用も慎重になります。特に大企業だと何万人もエントリーシートを送るので、書類選考や数回に及ぶ面接を行います。会社説明会には何千人と集まりますが、実際に採用されるのはその中の数人だけです。残りの数千人は採用されるかどうかもわからない会社の説明会に何十回と赴き、全く興味のない話を同じ数だけ聞かされます。

これらの行動は労働でも勉強でもありません。採用活動の一部分です。採用活動なんて労働のための前準備のようなものです。そんなものに労力をかけるなんて、時間の無駄以外の何物でもありません。私は色々と馬鹿らしく思えてきたので、早々に大手企業への就職を諦めました。

まとめ

日本の労働者・会社は日本政府の定めた悪法により何十年も苦しめられました。人手不足が顕在化して、グローバルの人材獲得競争に勝てないとわかってようやく、雇用の解雇規制に舵を切り始めました。あまりにも遅すぎると思いますが、それでも労働市場が好転するのは喜ばしいことです。

この記事では雇用の解雇規制がいかに悪法であるかを事細かに解説しました。そこから抜け出す具体的な手段については下記の本を参照してください。これからの時代を生き抜くヒントが書かれています。

日本の雇用に関する本もついでに紹介しておきます。